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目にスローモーションカメラを

 先日、ある作文コンクールの審査を
 していました。

 小学生から一般まで、応募総数約3万5000
 その中から、およそ100作品を読みました。

 読んでいて一番違いを感じたのは、
 情景描写です。
 そこに流れる時間が、全く違いました。

 ある生徒は、母親が離婚を切り出す場面を
 描いていました。

 「私は、この家を出る」

 という母親の顔の描写から、カメラが
 移動するかのように父親の姿が次にくる。
 ソファに座っている背中から上の部分の
 景色を書き込んでいます。

 「勝てる」と奢っていた剣道の試合で
 負ける瞬間。一瞬の迷いから小手を打たれる
 までが、まるでスローモーションでも見るように
 克明に描かれていました。

 比べると、大人は動きが早い。

 「空を見上げると、鳥が群れをなして飛んで
 いました」

 とさらっと書いている。子どもたちは、
 空を見上げるまでに見える人や森の木々までを
 描きます。
 ものを見る濃さが違うのです。

 読んでいて、歳を重ねていくと、時間の流れが
 早く感じるからくりがわかった気がしました。

 大人は、対象物を見る経験がある。
 だからそこに行きつくまでの過程を意識する
 ことが少なくなります。
 対象物をとらえるにあたり、脳が最小限の負担しか
 追わないように働いているのです。

 ところが子どもは、いちいちが濃い。
 コンビニでお母さんが買ってくれたプリン。
 これも手にした瞬間から食べるまでを克明に
 描きます。

 だから子どもの方が、枚数がかかる。
 
 作文教室をやっていても、低学年ほど
 たくさんの字数を必要とし、大人になるほど
 文章は短くなります。

 確かにまとめ方はうまくなる。
 しかし、ものを見る鮮度は、圧倒的に子どもの
 方が上です。

 子どもの作文を批評したり、添削する
 なんてなんとおこがましいことか。
 大人こそ、子どもの言葉から学ぶべきです。

 人生100年と言われる時代を生きる私たち。
 効率を求めて文章を省エネ化ばかりしていたら
 あっという間に時間は過ぎてしまいます。

 子どもの目で、あたりを見回す力が大事。
 スローモーションカメラを目につける必要性を
 ひどく感じたものでした。

・・・

<ひきたよしあきプロフィール>
株式会社 博報堂スピーチライターとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。
現在(財)博報財団にコラム「こどものコトダマ」、博報堂マーケティングエグゼクティブに「経営のコトダマ」、朝日小学生新聞「大勢の中のあなたへ4」、日経BP「カンパネラ」に「生きる力の強い女性」を執筆中。
<著書>
「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)
「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)
「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)
「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)
「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」(かんき出版)
「大勢の中のあなたへ2」(朝日学生新聞社)
「ひきたよしあきの親塾」(朝日学生新聞社)
「5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本」(大和出版)
「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」 (かんき出版)

新著書 2019年11月7日発売予定 Amazon予約受付中

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質問力

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