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さくら同窓会

毎年、さくらの季節になると
集まる仲間がいます。

大学の同級生の3人組。
女性ばかりですが、
私も仲間に入れてもらっています。

さくらが満開な時期に集まり、
神保町や銀座でランチをする。
お酒も飲んで、だらだらと
しゃべり、その後
千鳥ヶ淵にいきます。

この季節の千鳥ヶ淵は、
人もさくらも満開。
4人はすぐにはぐれるし、
そしてまたすぐに集まる。

さすが、校歌に

「集まり散じて」

とある仲間です。

それぞれ、子育ても終わり
のんびりしている。
と思いきや、美術の仕事を
やっていたり、海外を飛び回って
いたりで、忙しい。

それで滅多に会えないから、
この「さくらの会」が尊いものに
思えるのかもしれません。

実は4人のうち、2人が
「がんサバイバー」です。

2人に1人はがん患者と言われる
通り、半分が病気と闘い、
そして切れることなく、さくらを
見ているのです。

若い頃は、ただの花見。
しかし歳を重ねるうちに、
あのさくらの花びら一枚一枚が、
1秒1秒の「時間」に見えてきます。

今が満開!

と思った次の瞬間、春の嵐に
見舞われて、吹雪のように
時は過ぎ行く。

パリジャンが、セーヌの流れに
時を感じるように、
私たちは、さくらに「時間」を
そして「命」を感じるのではないでしょうか。

もう30年以上も前、私の父も
重い病に伏せていました。
だんだんと痩せ衰えていく中で、
ある日、病院を抜け出したのです。

千鳥ヶ淵のさくらを見にいったのでした。

戻ってきて母と看護師さんに告白する
父を見て、私も千鳥ヶ淵を歩くように
なりました。

父が死んでから、東日本大震災の時を
除いて、欠かさず千鳥ヶ淵を歩きます。

離婚したのもこの季節でした。
世田谷区役所に離婚届を提出したあと、
バスに揺られて、電車に乗って、
どこをどう歩いたのかもわからぬままに
1人で千鳥ヶ淵を歩きました。

がんの宣告を受けた年は、夜に、
千鳥ヶ淵にいました。
気がついたら、皇居を一周していました。

さまざまのこと思い出す桜かな

芭蕉の詠んだこの一句の
「さまざまなこと」が年々増えていく。

時は、吹雪になって散るのに、
思い出は、根となり幹となり、
私の中に残ります。

やがて、私にもさくらを見ることの
できない時期がやってくる。

妻も子どももいない私には、
この思いを継いでくれる人がいない。

その寂しさを噛みしめるようになって
一段と、毎年いっしょに歩いてくれる
大学時代の仲間たちが大切に、愛おしく
思えてきたのです。

あぁ、そうだった。
今年、まだスケジュールを決めてないよね。
みなさん、いつにしましょうか?!


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」(かんき出版)「大勢の中のあなたへ2」(朝日学生新聞社)がある。最新刊は11月末に「ひきたよしあきの親塾」(朝日学生新聞社)https://amzn.to/2KQIDP2 を好評発売中

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