スランプとフレディ・マーキュリー
スランプの乗り切り方
と、タイトルにしてはみたものの、
それがわからず困っています。
スランプは、突然やってきて、
なかなか席をたとうとしてくれない。
今でもこれを書いている私の横に、
どかっと座っています。
きっかけは、体調を崩したことでした。
土日もなく仕事を入れているもので、
一度体調を崩すと取り戻すのが大変。
それでもこれまでは、悪いなりにコラムを
書いたり、企画書を打つことができました。
ところが、全くやる気が起きない。
体がだるくて、すぐに眠くなるのです。
「風邪のせいだ。早く治そう」
と思って布団をかぶって寝ていると、
次から次へと悪い夢を見てしまいます。
あそろしくカラフルで、荒唐無稽なのに
自分の焦りや不安を見事に突いた
怖い夢ばかりが続く。
それが20本近く続くとさすがに
起きてからも疲れています。
少しぼーっとしていたら、
2時間近くたっていた。
こんな日々が続きました。
何よりつらいのは、これまで書いてきた
原稿が恐ろしくつまらなく見えること。
校正段階に入った原稿には、編集者からの
修正ポイントが示されています。
それを読むうちに、
「こんなつまらない原稿、出版しても
意味ないんじゃないか・・・」
という気がして、パソコンを開くのも
嫌になる。
呼吸をするかのように書いていた
Facebookにも、何をどう書き込んで
いいのやらわからなくなる。
「あ、今、結構、やばいのかも・・・」
という気がして、パソコンを開くのを
やめていました。
なんとか、立ち直ってきたきっかけは、
体調もさることながら、友人がくれた
たわいのないメッセージでした。
「フレディ・マーキュリーだって、
あれだけスランプになるんだから」
大ヒット「Bohemian Rhapsody」で、
主人公フレディ・マーキュリーの苦悩を
思いださせてくれたのでした。
「そーか。フレディ・マーキュリーだって
悩んだんだもんな」
という、能天気な言葉を自分に言い聞かせ、
彼がライブで歌った
「ボヘミアン・ラプソディ」を繰り返し
繰り返し聴いていた。
「きっと、僕にだってあの奇跡のライブが待っている」
映画後半の怒涛のライブシーンが頭に浮かび、
そこから少しずつ、パソコンが開けるようになったの
でした。
人は何がきっかけでスランプになり、
何がきっかけで救われるのか、ちっとも
わからない。
それでもそこに、友だちの箴言があり、
気持ちを鼓舞させてくれる音楽があり、
苦悩を超えて奇跡を起こした人がいたのは
事実です。
ありがたいことです。
とはいえ、自分の書いているものに
納得がいかない現実は変わらず。
この原稿も、公表すべきかどうか、
悩みながら書いています。
それでも、書き残そうと思うのは、
スランプこそが、男の変わりドキ!の
真髄だから。
この「何もかもつまらなく見える病」は、
スランプというよりも、
新しい境地に自分が入り込もうとしている
最中だからではないか。
実は、そんな春の予感を、私は
スランプと言ってるだけではないのか。
そんな、ほのかな期待を込めて、
しばらくこの格闘を続けていくことになりそうです。
<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」(かんき出版)「大勢の中のあなたへ2」(朝日学生新聞社)がある。最新刊は11月末に「ひきたよしあきの親塾」(朝日学生新聞社)https://amzn.to/2KQIDP2 を好評発売中