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悪いことはできないもんだ

コソコソやったことは、必ずバレる。

小学校3年で、母から教わったテーゼです。

当時、通学路の途中に駄菓子屋がありました。
文房具におもちゃ、チョコレートやイカの酢づけ、
ハムカツまで売ってました。
母親と買い物にいくマーケットや市場では
見たこともないものばかりです。

しかし、買い食いは禁止です。
学校に通報された友だちが、こんこんと
先生に叱られた姿を二度も三度も見ています。

「買い食いは、しちゃいけない」

とわかっていながらも、その店の前を
通るとドキドキしていました。

その日は、学校の授業が午前中まで。
遅くまでドッヂボールで遊んでいた私たちは
下校時間が遅くなりました。
お腹が空きました。
こういうときに限って、なぜか小銭を
もっていました。

周囲に人がいないのを確認し、友だちと
3人で買い食いをした。何を食べたか覚えて
ないのは、あまりにキョロキョロこそこそ
していたからでしょう。

ところが、家に帰ったとたん、
母が、

「こっちにきなさい」

と言うのです。

「こんなに遅くまで何をしていたの」

「ドッヂボール・・・」

「それだけ?」

「・・・・それだけなの?・・・
わかっているのよ」

という言葉に背筋が凍りました。
だって、まだ買い食いしてから30分も
たってない。
母が知っているわけないと思っていたからです。
私は仕方なく、

「星野屋さんで、買い食いを・・・」

と白状し、その夜は本当にご飯を抜かれました。
そんなことより、明日学校でみんなの前で
叱られるのが怖くて仕方ありませんでした。

翌朝、友だちに聞いたら、別に怒られてない
と言いました。
先生も何事もないように授業を続けました。
でも、私はいつ職員室に呼ばれるか。
怖くてビクビクしていたのです。

その後、母は誰から聞いたのかを絶対に
言いませんでした。
今尋ねたら、

「そんなことあったっけ?」

と言うばかりです。

しかし、その時に私は思ったのです。

コソコソやったことは、必ずバレる。

告げ口したのは、星野屋のおばさんか、
すれ違った近所の人か、
いつもおせっかいをやいて、私の悪事を
告げ口する隣のゆきちゃんか、
いや、もしかすると神様か。

他の人はバレなくても、
私がコソコソとやったことは、必ずバレる。

と思い込んで、この歳まで生きてきました。

SNSでコミュニケーションがはかられる
時代です。
いくらでも裏で、コソコソと悪口を書き込める
世の中です。

多分、コソコソしているのでしょうが、
私の耳には必ず、「私への悪口」が届きます。

「裏で、こんなこと言われてるよ」

それを言ってくるのは、その悪口仲間の一人
だったり、全く関係ない人だったり、
色々です。
言ってるうちに、本人の反応でも見たくなった
のでしょう。

しかし、そんなことよりも、
私には、買い食いのときの思い出が
蘇るのがこわい。

「コソコソやったことは、必ずバレる」

ということは、私の言った悪口も、
絶対に、圧倒的な速さで、ほぼ丸ごと、
いや、それ以上に盛られ、羽をつけられて
伝わっている・・・

「いいか!今こそ小3に学んだことを
思い出せ。コソコソとやったことは、
必ず瞬時にバレているのだ」

と自分自身に言い聞かせせるとき、
男のつきあい方は、変わりドキ!を
迎えるのでしょう。

悪いことはできない、言えないものです。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」(かんき出版)「大勢の中のあなたへ2」(朝日学生新聞社)がある。最新刊は11月末に「ひきたよしあきの親塾」(朝日学生新聞社)https://amzn.to/2KQIDP2 を好評発売中

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