チャンスは、風のメッセージに乗って
小山薫堂さんと打ち合わせまでの
時間を潰していました。
わずか10分ほどの間ですが、
薫堂さんは、ずっとパソコンに
向かって何かを打たれていました。
一心不乱か、というとそうでもない。
目は画面を追いながら、
ちゃんと人の話を聞き、自ら雑談も
される。それが面白い。
一度にふたつのことをしている
のだけれど、周囲にまったくそれを
感じさせないのです。
この姿を見ているだけで、
かなり学ぶものがありました。
元ボストン コンサルティングの
日本代表だった御立尚資さん。
初対面の人と会った時、
笑顔で、
「最近食べたものの中で、
一番うまかったものは何ですか?」
と尋ねました。
緊張していた相手の顔が、
ぱっと華やいで、
「高田馬場のラーメン屋に・・・」
とラーメン談義になる。
しかし、食の話は恐ろしいもので、
人なりがでてしまう。
保守的なのか前衛的なのか。
感性なのか理論なのか。
ゆとりのある生活をしているか、
パサパサの人生を歩んでいるか。
横にいた私は、ちょっと怖くなりました。
こうした人たちとご一緒できる機会が
得られるのは本当にありがたいことです。
ただ有名だとか、仕事ができるだけでなく、
その人のちょっとした言葉や動作に
自分を律するヒントがたくさんあるのです。
「あぁ、俺はこういう努力が足りないん
だなぁ」
とか、
「こういうやり方があったのか!」
と思うことがたくさんある。
じかにあって、じかに話すからこそ
実感できる相手のすごさと自分の至らなさを
同時に体験することができるのです。
人をぐんと成長させるのは、人。
小さな成長は、読書や勉強を地道に
続けていけばいいのだろうけれど、
自分を違う次元にまでひきあげてくれる
のは、人です。
けして有名である必要もないし、
仕事と無関係でも構わない。
老人のときもあるし、子どもの発した
一言の場合もある。
ただ、今の自分に何かが足りていない、
どうすすむべきか悩んでしまうとき、
周囲に耳を傾けると、意外に悩みに
ヒントをくれる人が多いことは
知っておくべきでしょう。
会社の仕事を抱えながら、連載6本、
本を2冊書いている私には、
小山薫堂さんの執筆姿勢には、
学ぶものがありました。
日々新しい人と仕事に出会い、
「この人と組んでうまくいくだろうか」
と不安になっている時だからこそ、
御立尚資さんの、
「最近食べたものの中で、
一番うまかったものは何ですか?」
という質問に、膝を打ちました。
悩んだときは、周囲の声を聞いてみる。
神様は、自らメッセージは発すことは
ないけれど、人の言葉や行動を通じて
必ず私たちにアドバイスをくれている。
その風のようなメッセージに
気づくことができたとき、
私たちは静かに変わりドキ!を
迎えることができるのです。
これから先、私は佐賀、会津、
名古屋と旅をしていきます。
その先々で聞こえてくる風のメッセージに
耳を傾けていくつもりです。
<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」(かんき出版)最新刊は「大勢の中のあなたへ2」(朝日学生新聞社)がある。