好きになれない人
好きになれない人がいます。
「嫌い」というわけではないけれど、
好きになれない。
結構、たくさんいます。
「おまえ、好き嫌い、実は激しい
もんな」
「基準が高すぎるんですよ」
「小さいところをいつも突いて
いるから。人間が小さいんだよ」
と、みんなが私を分析してくれる。
長く苦労をともにした先輩から、
「ひきたさんは、人がきらいじゃ
ないんです。
自分にしか興味がないだけなんですよ」
と言われて、みんなが笑いました。
別のひとりが、
「ひきたは、自分に興味のある人しか
相手にしないもんな」
と、またグサリ。
かなり核心を突かれた気がしました。
「自分にしか興味がない」
これは多かれ少なかれ、誰にでも
あることでしょう。
しかし「コラム」という自分の過去や
今起こっていることの中からネタを
探し出し、文章に仕立てる仕事を
やっていると、自分について考える
時間が圧倒的に増えます。
古い日記をひっくり返し、
当時読んだ本を探し出し、
「こんなことがあった」
と頭に一行書いて、
何があったのかを思い出す。
これを続けていれば、
自分しか興味がなくなって
しまいます。
よくよく考えると、
「好きになれない人」の
多くは、こうして自分に
ついて考えているときに、
あれこれ口うるさく言って
くる人。
「ほっといてくれ!」
と言いたくなる人。
あちらは一生懸命私のことを
考えてくれているのに、
本当に失礼な話です。
しかし、だからこそ
好きな人も見えてくる。
「経験を面白く語る人」
その人の語る子ども時代からの
失敗や悔恨。
いまだに解決できないわだかまり
を語ってくれる人。
じっと聞いていると、
「あぁ、この人にもこんな
一面があるんだなぁ」
とはじめて、人に興味がもてる。
「今、どうしようか迷っています」
という悩みを打ち明けられると
惚れるケースが多いのは、
その悩みを「私ならどうするか?」
と考えていくからでしょう。
いっしょに解決方法を考える
うちに、カチンと答えにあたる
ときがある。
これも嬉しい。
利他の精神も大切ですが、
他人を思いやる時、
もっと大切なのは、
「自分はどんな失敗をして、
何に悩んでいる人間だ」
という弱さの部分を
共有できているかどうかでは
ないか。
つまり「自分に興味」をもって
しっかり生きているかでは
ないかと私は考えてしまいます。
「好きになれない人」
の多くは、自らの悩み、失敗、
悔恨もなく、あれこれ言ってくる人。
「あなたのこと、俺、何も
知らないんだよ」
という段階からズケズケ入って
こられると、気持ちが引きこもる。
長く生きてきたんだ。
弱点や悩みごとが、人の一番の
魅力なんだよ。
ということに気づいたとき、
人付き合いが再整理され、
好きな人、好きになれない人が
あぶりだされてくるものです。
人に対して、好いた惚れたの
基準が変わる。
これも男の変わりドキ!では
ないでしょうか。
<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ(かんき出版)最新刊」がある。