ため息のつきかた
「ハァ〜とため息をつくな!
ホゥ〜と出せ」
若い頃、プレゼンに負けたと聞いて
先輩にこう言われたました。
ほぼ3週間、明けても暮れても
この企画作業ばかりをしていました。
絶対負けたくないと思っていたので、
「負け」と聞いてため息がでたのです。
「ん? ホゥ〜? この人何言ってんだ?」
という感じ。
ため息につき方があるなんて、普通は
思わないですから。
しかし、この先輩の言葉はずっと
残りました。
苦しかったり、悲しかったり、
心がモヤモヤしたときに、
ハァ〜とでそうなため息をホゥ〜と吐く。
そして息を出し切る。
同じ呼吸なのに、随分と気持ちが
違うのです。
ホゥ〜と吐いたあとの方が気持ちが
少しスッキリするのです。
ハァ〜とため息をつく。
この行為は、ダメな自分の記憶を
呼び覚ますかのよう。
テストで悪い成績をとったとき、
入りたい大学に落ちたとき、
彼女にふられたとき、プレゼンに負けたとき。
そんなことが走馬灯のように蘇ります。
そういえば、スヌーピーのマンガに出て
くるチャーリーブラウンは、いつも
「SIGH」とタメイキをついている。
「何をやってもダメな男」が彼の
キャッチフレーズですからね。
しかし、「ホゥ〜」は違います。
あとで知ったことですが、「ホゥ〜」と
息を吐くことで、横隔膜が動く。
ここをほぐすと緊張状態がとれるそうです。
先輩は、そんな理論は知らなかったと
思います。
幾多のプレゼンで辛酸を舐め、
何度も捲土重来するなかで身につけてきた
彼なりのメソッドなのでしょう。
こんなことに気づくのは、
自分もまた先輩のように、
「ハァ〜とため息をつくな!
ホゥ〜と出せ」
と言いたい後輩や教え子たちが
増えてきたせいなのは間違いありません。
「ホゥ〜とため息をつけ」
と、若い人に教える。
人の落ち込む気持ちを少しでも
楽にしてあげようと願う言葉がでる。
これもまた、男の変わりドキ!だと
在りし日の先輩の姿を思い出しながら
考えました。
<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ(かんき出版)最新刊」がある。