人は、失って初めて考える。
ここ3日ほど、ひどい口内炎で悩まされていました。
一度に3つできて、そのひとつは舌でした。
クスリをつけても、すぐにとれてしまう。
鏡で見ると小さいのに、醤油がしみると顔中に
痛みが広がります。トマトを食べると舌が身悶え
します。滑舌も悪くなり、往生しました。
口内炎程度のことでも、いろいろ考えます。
「ビタミンBが不足してるのかなぁ」
「会食が続いて胃が疲れてるんだろう」
「いや、もっと悪い病気かなぁ」
気がつくとこんなことを考えている。
漢方薬屋の看板に「口内炎」の文字を見つけて
飛び込むと、
「それは胃が熱をもっているんだよ。
これを飲みなさい」
ととびきり苦い漢方を処方してくれました。
それが効いたのか、すでに治る時期だったのか。
現金なもので、痛くなくなると治った時期も
口内炎だったことも思い出せません。
どうやら健康について考えるのは、
健康を失ったときのよう。
健康な人は、健康のことなんて真剣に
考えないのではないでしょうか。
同じことは「愛」なんてことにも
言えそうです。
いわゆるLOVE!LOVE!の状態の時は、
愛について考えているようで、考えてない。
「俺たちの愛って一体何なのだ?」
と真面目に考えるのは、その愛が
壊れかけたり、冷え冷えとしてきたとき。
愛について考えるのは、その愛を
疑ったときではないでしょうか。
生物学的には、どんなに激しい恋愛も
3年で冷めるそうです。
そこまでは、性にまつわる行動が
先行する。子孫を残すために神様が
与えてくれた時間です。
神様が、二人の愛から去って行き、
やっと人間の時間が始まる。
するとこれまで完璧に思えた愛に、
小さな口内炎が生まれてくる。
いわれなき痛みや、おいしいものまで
不味くなる仕打ちにあって、
「おい、俺たちは大丈夫か?」
ということになる。
ここからが、愛の本番なのでしょう。
健康を損なったり、
愛にひび割れを見つけたりしながら、
限られた人生を歩んでいく。
傷つくことを覚え、
痛みをこらえる術を知り、
やがて、許すとか受け入れるという
感覚が身についてくる。
若いころのような健康体でもない。
神秘のベールをめくるような恋愛でも
ないけれど、不健康も、多少ポンコツな
異性をも受け入れていこうとする。
そんなとき、確実に自分は成長した。
変わりドキ!を迎えたなと思えるはず。
たくさん失って、いっぱい考えて、
成長したいものですね。
<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社 最新刊)がある。