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Being あなたがそこにいるだけで

ゴールデンウィークに、齢の近い従兄弟と
食事をする機会を得ました。
薫ちゃんと公子ちゃん。
薫ちゃんは私の1つ上、公子ちゃんは3つ下です。
いっしょに麻布十番の神社を参拝したあと、
広尾で昼からランチを食べました。

話すのは、当時下北沢に住んでいたおばあちゃん
のこと。
急勾配の坂の上にあった実家で遊び、夕暮れに
帰る時、祖父母が私たちが見えなくなるまで
道に出て送ってくれました。

「あの時のおばあちゃまの手つき、招き猫
みたいだったわよね。右手で
『おいで、おいで』している感じ。
私たちが見えなくなるまでずっと
『おいで、おいで』してくれたの、懐かしい」

と昔話のディテールに入れるのが親戚づきあいの
いいところ。
忘れていた情景が目の前に浮かんできました。

従兄弟も私も大好きだったおばぁちゃん。
私には大変な読書家でしたが、女性の従兄弟たち
には「おいしい魚の見分け方」を伝授してくれた
人。そんな懐かしい話を半日近くしていたのです。

人は死んでも思いでの中で、生きている。

そんな甘っちょろいことは言いたくないけれど、
確かに私たち従兄弟の中には存在し、様々な
ことを語ってくれている。
寂しくなったときに振り返ると笑ってはげまして
くれているのです。

英語で言えば、Being
ただそこに存在してくれるだけでありがたい。

心の中のこうしたBeingな存在を
確認したいとき親戚の集まりは抜群の効果が
あります。

閑話休題。
がんの手術から一年が経ちました。
体は以前と同じとは言いがたいけれど、
食事も仕事も以前と変りません。

しかし私が「がんの経験者」として多くの
先輩や友だちが相談や告白にきてくれます。
名前を聞けば誰もが知っている会社の
社長が、こそこそと

「社員には黙ってますが、実は私も
がんでしてね」

といかに克服したのかを語ってくれるのです。
また多くの女性たちが、婦人科系のがんにかかり
治療中であることも赤裸に告白してくれました。
病気の紐帯はとても強いのです。

大変失礼な話ですが、私はこういう
話を聞く度に、

「もしもこの人が、亡くなってしまったら」

と考えます。
こんなことをストレートに考えるのも
がんになってからのこと。
「死」を遠ざけたり、嫌ったりすること
なく、生活の一部になっているのです。

大好きな社長や素敵な女性たちが
いなくなってしまった世界。

ぽっかりと心に穴があいて、走馬灯の
ように「思いで」が頭を巡ります。
この人たちとどんな仕事をしたかとか、
会社の肩書きは何だったかなんて、
全くどうでもいいこと。
ただただ彼女らが生きて「存在」してくれる
ことの尊さ、ありがたさを感じ入る。

そこに「存在する=being」こと。
同時代を生きて、この地球で私とすれ違い
かけがえのない存在として今、いること。

その「The Moment of Truth」
(真実の瞬間)におののき、深い感謝の
思いで心が満たされるのです。

あいつは仕事ができないとか、
性格がきついとか、
生理的に気にくわないとか、
そんなことはどうでもよろしい。

あなたがそこにいてくれること。
だたただ、それだけに救われて、
愉快な気持になれる。

Being

わずかこれだけの言葉がストンと
心に落ちた時、あなたの生き方も
人を見る目も変わりドキ!を
迎えているはずです。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」最新刊「大勢の中のあなたへ」(朝日新聞出版)がある。  

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