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天才は量である

1月1日からFacebookに書き始めたコラムが10月17日に
1000本に達しました。1000本を290日で書く。
1000字を超えるコラムを毎日平均3.5本書きつづける。
自分で言うのも変ですが、これは並大抵の努力ではできません。

特に今年のようにがんに冒されていることがわかり、手術し、
長く療養すると落ち込む日が多いのです。病気のことばかりも
書けないので、ネタを探す。少し考えるけれど、やっぱり
病気のことを考えてしまう。焦ると頭が真っ白になる。
無理して書くと、読んでくださる方から

「しばらくは休んだ方がいい」

というメッセージが大量に届いてしまう。

こういう精神状態の中で書き続けられるほど自分は
強い人間ではありませんでした。
しょっちゅう負けて、易きに流れていく。
読み返すと、ひどいものもたくさんあります。
しかし、それを含めて「ひきたよしあき」という人間
なんだと思うのです。
人間、そんなに調子のいい時ばかりじゃないからね。

ひとつの信念があります。

天才とは「量」だということ。

夏目漱石も太宰治も、小説の他に恐ろしい分量の手紙を
書いていました。今二人が生きていれば、すぐれた
作品を生み出しつつ、毎日4本、5本と面白いコラムを
Facebookに提供していたと思うのです。

「書く」という作業を「仕事」にしない。
「書く」という「イベント」にしない。
日常生活の中で、呼吸をするようにペンを走らせる。
いい状態も悪い状態も、すべて文字化する。
これができてはじめて「作家」と呼ばれる人間に
なれるのではないかと思っているのです。

日常の中に深く「書く」ことを染み込ませると、
何もかもがネタに見えてきます。
タクシーの中での短い会話も、電車で聞こえる
無駄口も、おいしいネタに見えてくる。
立ち読みの一言、中吊り広告のワンフレーズ、
仲間の一言、母の小言などなど。
聞いた瞬間に、ピンときて手帳にその一言を
書き込む。
こうした積み重ねがあってこそ、書くものが
洗練されていくのだと私は信じています。

かの美空ひばりは、1000枚を超える
レコードを出したそうです。
押しも押されもせぬ大スターでありながら、
奢ることなくどん欲に、録音マイクの前に
立っていたのです。
だからこそ、名作がいくつもある。
持って生まれた才能に加え、量をこなすだけの
粘りと向上心があってはじめて、天才といわれる
人になるのではないでしょうか。

コラムの1000本超えは、今年で3年連続です。
来年も再来年も、これにチャレンジしていくつもりです。
常にネタ切れで、十八番が切れて四苦八苦。
そんな状態からでなければ、自分を変えていくだけの
力をもった文章を生まれてこないのではないでしょうか。

健康や労働時間に問題は確かにある。
それも十分わかった上で、私はこう思うのです。

天才とは、量である。

思いが時間の長さを超えたとき、人をあっと
言わせる作品ができるものではないでしょうか。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著書に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」最新刊「大勢の中のあなたへ」(朝日新聞出版)がある。 

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