「朝日小学生新聞」にコラムを書いています。
男で読む人は少ないのだけど昔から「足長おじさん」という
書簡小説が大好き。
一方通行の新聞で、小学生と文通をしようと考えてはじめました。
しかし、私が子どもだったのは、およそ45年前。
高度経済真っ盛りの昭和に育った私が、今の子どもに向けて
手紙など書けるものか不安はありました。
やってみるものです。45年前に、大親友とけんかした話を
書いたところ、子どもたちから沢山手紙がきたのです。
「私も今、お母さんとけんかしています。謝りたいけど、
顔を見ると、またけんかになります」
「私も相手も仲直りしたいのにできません」
子供たちが現状を詳しく書いてくる。最後には、
「私もがんばります。ひきたさんもがんばってください」
と応援される始末です。
さらに文通を続けていると男子と女子で明らかに内容が
変わってきました。男子は、
「水泳大会で入賞した!」
「運動会のリレーで優勝した」
という高らか勝利宣言が続きます。
対する女子は、こちらの心理を巧みに読むようになります。
「返事がなかなか来ないのは、
お仕事が忙しいからですね。体が心配です」
なんて、こっちが怠けていたのを
見透かしたような文面が入ってくる。
「ごめんなさい!今日書くつもりでした」
と小6の子にそば屋の出前みたいな言い訳を書く私。
女の子はこの年齢で男を尻に敷く術を身につけているのです。
子どもたちの一年の成長はとても早い。
4月と12月では同じ人が書いたとは思えぬほど
文章がうまくなる。
文章の書き方やリズムがだんだん私のものに似てくるので、
誤字脱字、文法に間違いがないように緊張して書いています。
子どもがいないので、親の気持ちがわかるわけではありません。
しかし、少なくとも私にとっては、
大勢の子どもたちに、自分がこれまで悩み、学び、
試行錯誤の中でつかんできたものを伝えたい。
同じ目線で一緒になって考えたい。
子どもたちのために働きたいと願うのです。
そんな気持ちが心に湧いてきたときに、
ふと目をあげると「定年」というゴールが
リアルなかたちで見えてきました。
古い広告コピーじゃないけれど
「そろそろ次のこと」
それを毎週送られてくる子どもたちの手紙に
教えてもらったのです。
男の変わりドキ!それは次の世代と次の自分が
見えたときにはじまる。
子どもたちに叱咤激励されながら、そんなことを考えています。
ひきたよしあきプロフィール
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日新聞出版 6月予定)がある。