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共感の物語

練馬区の大泉学園で、
文芸サロンを始めました。

若い頃から読んできた
夏目漱石
芥川龍之介
太宰治
三島由紀夫
について、気ままに語る。

大学の講義ではないので、
定説から離れ、
ゴシップを偏見と曲解に
あふれた私見を90分
語り尽くす。

こんな身勝手な講演に
毎回多くの方が参加してくれます。

これまでに2回、
芥川龍之介と太宰治について
語りました。

私がもちこんだのはもっぱら
「女性の視点」。

母や妻はもちろんのこと。
叔母、乳母、女中、恋人、
不倫相手の存在と生き様が、
作家に大きな影を落としている。

結局、作家は、女の育て方
ひとつでいかようも変わる
ものなのだ、というのが、
私の講義に通底するものです。

来てくださる方の多くは女性。

それも小学5年生から
80代の方まで様々。

講義のあとはケーキを食べながら
太宰や芥川について語り合う
のです。

これは私のひとつの理想郷
でした。

若い頃に、文学少女や少年が
集まって、ひとつの作品を
ああだ、こうだと話し合う。
今から思えばどれもこれも
ピントはずれだけれど、
そのズレた感じがいい思い出になる。

この年齢になっても、

「あの時彼女は、太宰のこーいう
ところが嫌い!と言ってたな」

と再読するたびに思い出すのです。

あんな読書会は文学サロンを
ひらきたい。
しかも、「よく読んでいる人」の
集まりではなく、ひとつも
読んだことのない人でも参加
できるようにする。

文学作品や作家の生き様を通じて、
そこに集まるみんなの力で
「共感の物語」を
つくりあげていけばいい。

そんな風に考えています。

人生がなんとなくわかりかけて
きた人が集まって、
「学校の勉強」とは違う学びの場を
つくる。
何に役にたつのかわからないけれど、

「その本、ちょっと読んでみようかな」

程度の好奇心が湧いてくる。

こういう場を共有できる仲間が
できたとき、きっと人は
「変わりドキ!」を迎えるのでしょう。

話材は、文学じゃなくてもいい。

みんなで「お雑煮を研究しよう!」
ということになれば、それでいい。
家に伝わるお雑煮を持ち寄れば、
そこから日本の食文化の歴史が
見えてくる。あるいは伝統の継承を
今後どうしていくべきかという
未来志向の議論も生まれる。

正しい、正しくない。
正当、亜流、
効果がある、効果がない。

そんなのどうだっていいじゃないか。

そのとき、その場にいる人で、
共感の物語を紡いでいく楽しみこそが
知的に優雅に歳を重ねる秘訣
じゃないでしょうか。

昨日からまた、
太宰治「津軽」を読み始めした。

りんごの匂いがしみてきそうな
津軽の列車で旅をした若いあの日が
蘇ってくる。
これが私のアンチエイジングの
方法です。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ(かんき出版)最新刊」がある。 

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