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あと3回の桜

桜の開花が早かった。
咲いたと思ったら、東京では雪が降り、
そこから一気に5月の気温。
驚いた桜は、あっという間に満開の
花を咲かせました。

タクシーに乗ったら女性の
ドライバーが、

「この季節だけ、お客様のいないときは
窓をあけて走ります」

と嬉しそうに語った。
年中、冷暖房装置の中にいる彼女は、
桜の咲いている間だけでも
季節の風を味わいたいと笑う。

知らない間に日がのびて、
6時でも昼のよう。
早く仕事が終わって街にでると、
普段は行かない店が目にとまる。

あるメーカーが、
スニーカーのフェアをやっていた。

「私、大学の陸上部なんです。
『陸王』を撮影したグランドで
毎日、走ってます」

という白い歯がさわやかな青年が
担当してくれた。

まるで「伝説のシューフィッター」
のように博学。
スニーカーをもってくる度に、
歴史から性能までをスラスラと語る。

「これがスティーブ・ジョブズの
愛したモデルの後継です」

と出してきた靴と同時に、
スマホを開いて、ジョブズの写真の
足元を拡大した。

「すでにこのモデルは手に入らない
のですが、同じ形で進化しています」

と説明。アジア生産ではなく
アメリカで手作りしているので
他より値段が高いと教えてくれた。

外は、桜。店員は、陸王。

日頃の運動不足と春の陽気に
浮かれて、財布が開いた。

思えば、私が会社員の肩書きで
見る桜は、今回を入れて
あと三回。

「最終段階に突入だな」

と思ったとき、
男の変わりドキ!が浮かんだ。

「桜が、カウントダウンになる頃に
男は変わりドキを迎える」

週末は、このスニーカーを履いて
千鳥ヶ淵でも歩いてみよう。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ(かんき出版)最新刊」がある。 

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