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男のオトナの思春期 男の変わりドキ㉛ 「三文献一系統」

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三文献一系統

NHKでクイズをつくるアルバイトをしていたときのこと。
ひとつのクイズをつくるのに、
3つの資料と一人の有識者の確認が求められました。

「衆議院議員と参議院議員のバッチは、
参議院の方が大きい」

こうした記述を見つけクイズをつくる。
その時、その本の他にもうふたつ文献を探して添付する。
さらに関係者に確認しなければなりません。

ネットのない時代です。
私は膨大な時間をNHKの資料センターで過ごしました。
3年近く続けていると、どこの書架に何の本が置いて
あるか覚えてしまう。
何かわからないことがあると、目を閉じて頭の中に
あるNHK資料センターを思い浮かべると、

「ははん、あのあたりの文献を探せば出ているな」

とわかるようになりました。

私の人生において、この時間は大変意義深いものに
なりました。その後の私の思考法を決定づけたようにも
思えるのです。

小学生向けのコラムを書いている私の元には、
子どもたちから毎週手紙がきます。
低学年の子どもの多くが、

「食べるのが遅くて困っている」

と訴えてきます。

「お母さんに早く食べなさいと言わます。
でも、どうしても食べられません。
ごはんの時間が、いやでしかたありません」

というような内容の手紙が全国から集りました。

これにどう答えようか。
教えている大学の学生に聞いたら、

「それも個性だからいいって書けばどうですか」

と言われました。
しかし、低学年の子に「個性」はちょっとわかりづらい。

調べてみると、子どもは舌が生育していない分、
大人のように細かく味の分類ができない。
その上、体に毒物を入れないように大人の何倍も
初めて食べるものに対して、匂いや味が強烈に広がると
いう話を見つけました。

さてこれをどうするか。
悩んでいたら、「窓際のトットちゃん」(黒柳徹子著)の中に
トモエ学園では食事の前に

「噛めよ、噛めよ、たべものを」

と歌うという話がありました。

舌を発達させるには、噛み砕いてその味を味わうしかない。
噛むうちにその味を体が認め、好きになっていく。

別の雑誌を見ていたら、忙しい親が子どもを自分の時間に
合わせるように育てることの弊害というのを見つけました。
「早くしなさい」という言葉を言いすぎるというのです。

「早く食べるではなく、よくかんで食べる」

しかし、これでは昔からよくある教育でしかありません。

またしばらく考えながら本屋を歩いていると、とある
ダイエット本に、

「ダイエットのためにはよく噛むこと。
モグモグモグと言いながら噛むと知らず知らずに
よく噛めるようになる」

というのを読んで、「これだ!」と思いました。

子どもへの手紙には、

「早く食べようとせず、モグモグモグと言いながら、
勇気を出して噛もう。続けていくとおいしく感じられる
ようになるよ」

と書きました。

二ヶ月経った頃、子どもから手紙を来ました。
努力の結果、一週間給食時間内に食べ終えることが
できたという喜びの手紙でした。

こうした手紙を書く力もまた若い頃、NHK資料センターに
こもっていたおかげです。

大人とは、若いころに鍛えた力をあらゆる方面で発揮
できる人のこと。
だから若者には、好き嫌いで判断せず、モグモグモグと
なんでも噛み砕く勢いでチャレンジする気概をもって
ほしいのです。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」最新刊「大勢の中のあなたへ」(朝日新聞出版)がある。  
 
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