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命の喜ぶ生き方をする

今年79歳になる男性は、長くハワイ大学で教鞭を
とられていました。
専門は、「禅」を中心にした哲学。
アメリカ本土の大学でも教え、スティーブ・ジョブズが
「ZEN」を学んだところでも教えていたそうです。

身長は180㎝近くある。背が全く曲がっていない。
見た目は、60歳の半ばといったところでしょうか。

「ひきたくん、体を柔らかくしておくことだよ。
ストレッチと100回のスクワット。
階段を上るときも楽しくなくちゃ、
人生つまらないじゃないですか」

と、おいしそうに日本酒を飲まれました。

この男性と私は、ある団体で今年から理事を勤めます。
その初会合の席での会話でした。
初めてお会いするのに、人懐っこくて、さわやか。
時折、会話が英語になっても、必ず日本語の訳を
いれてくれます。

「私はね。50代で大腸がんを患ったんだ。
5㎝ほどあってね。当時の医療じゃ治らないと言われ
ました。
そこで考え方を変えたんです。

命の喜ぶ生き方をしよう、と。

命の喜ぶ食べ方をする。命の喜ぶ歩き方をする。
命の喜ぶ仕事をする。命の喜ぶ人に会う。
命の喜ぶ睡眠をとる。命の喜ぶ場所に行く。

命の喜ぶ生き方というのは、
一度しかない一瞬を楽しむってことなんです。
一瞬を生きる。一瞬を愛する。

これを実行したら不思議なことにがんが
消えたんです。
それ以来、ずっと健康なんですよ」

新年を迎えて、丁度これからのことを
考えていた時期でした。
定年退職まであと3年。
カウントダウンも緊張感を帯びてきた今年。

「さて、どんな一年にしようか」

と考えていた矢先に聞いたこの言葉は
衝撃でした。

「命の喜ぶ生き方をする」

がんのような重い病気にかかった人間は、
今後の人生を誰もがこう生きたいと願うのでは
ないでしょうか。

「昔の人は、ワーク ハードだった。
忙しければそれで満足だった。
つい最近までは、ワーク スマートだったね。
効率よく働くことがもてはやされた。
これからは違うよ。

ワーク ハピネスだ。

幸せのために働く。言い換えれば、
幸せを創りだすことを仕事にする時代がくる。
人生100年と言われる時代は、ガラリと
生きていくことの価値が変わるんだ」

この日以来、「命の喜ぶ生き方」や「ワーク ハピネス」は
私のモノサシになっています。

仕事の途中、目の前にお弁当が出される。
それを眺めて、

「この食事は、命の喜ぶものだろうか」

と考える。これまでなら多少いやでも食べていた
ものを口にしない力が生まれました。
人に会う基準も「命の喜び」です。
この人に会うと、魂が喜ぶ。
この仕事をすると、魂が磨かれる。
ここで休息をとると、魂が再生される。

そんな風に考えるようになったのです。

一度しかお会いしたことのない先生ですが、
勝手に師と仰いでいます。
5月には一緒に旅をする予定もある。
それが「命の喜ぶ旅」になることは間違いない。

人生の変わりドキ。
それは、生きるためのモノサシを手にしたときに
訪れるものだと確信しています。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著書に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」最新刊「大勢の中のあなたへ」(朝日新聞出版)がある。 

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