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男のオトナの思春期 男の変わりドキ!⑦

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 5月10日に腎臓がんの手術を受けました。
 早期発見でしたが、できている場所が悪く内視鏡ではとれない。
 4時間半に及ぶ開腹手術をして、19日に退院しました。

 入院中、そして退院後の今も多くの方から激励の手紙やお守りが
 届きます。
 お心遣い本当にありがとうございます。

 手術当日と翌日以外は、六人部屋に入院。
 そこで様々な人間模様を見ることができました。

 60代のエネルギッシュな男性が、血を吐いて運ばれて
 きました。胃潰瘍です。

 「胃潰瘍なんてさぁ。ゼネコンにとっちゃ、職業病みたいな
 もんですわ。ちょっと、事務所に返してもらえませんか?」

 と看護師に懇願するもあえなく拒否。
 すると次から次へと会社の人が病院に訪れ、

 「まずは、こっちから支払ってくれ!」
 「ダメだよ!田中一人に任せたら!」

 と2時間ほど工事現場のように騒がしくなりました。
 手術前夜の緊張した時間だったもので、逆に気が紛れて
 よかったようにも思います。しかし、はた迷惑な患者であることに
 間違いはありませんでした。

 手術を終えると、今度はインテリらしい男性が隣のベッドに
 入りました。なぜインテリかといえば、夜中に英語の本をブツブツ
 言いながら読むのです。ちょっと感情が入りすぎていて気持ち悪い。
 さらにこの人、クスリおたくらしく、ネットで買い漁ったクスリを
 持ち込んでいたのですが、全部看護師さんに没収されました。
 その長い抗議を聞きながら痛みに耐えるのは、ちょっとした
 苦痛でした。

 少しよくなった頃、関西弁のご老人が入ってきました。
 とても明るい人で、看護師さんの名札を見てすぐに名前で
 呼びます。
 明日が手術だという日もずっと鼻歌を歌っていました。

 ♪ 思い通りにならない日はぁ〜
   明日、がんばろう〜

 NHK連続ドラマ「あさが来た」のテーマソングです。
 聴くとここばかり歌っています。食事のときも、歯を磨いて
 いるときも、トイレに立つときも、時折、

 ♪ 思い通りにならない日はぁ〜
   十日、がんばろう〜

 と退院までの予定日に歌詞をかえて、歌うのです。
 大きな声で、小さな声で、ささやくように、
 ためいきまじりに、関西弁でジョークを飛ばしながら、
 この歌詞を繰り返していました。

 今、自宅療養をしながら、病院で過ごした日々を思い出して
 います。そういえば私も、いつのまにかこの関西のおっちゃん
 の真似をして、

 ♪ 思い通りにならない日はぁ〜
   明日、がんばろう〜

 と声に出したり、心に思い浮かべたりしながら、この歌詞を
 繰り返しています。

 男の変わりドキ。
 それは今まで、当たり前のように思っていたことが、
 思い通りにいかなくなる時。
 さらに言えば、それに腐るでも、嘆くでも、恨むでもなく、
 肩の力を抜いて、

 ♪ 明日がんばろ〜

 と鼻歌で歌えるようになったとき、自分の体と心の均衡がとれ、
 これからの人生を思うがままに飛べるようになる。

 そんなことを学んだ入院生活でした。
 ゼネコンのオヤジさん、クスリおたくのエリートさん、
 関西のおっちゃん、みんな長生きしましょうね!


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂
クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日新聞出版 7月予定)がある。

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