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男のオトナ思春期  男の変わりドキ! 66 くだり坂の風景

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くだり坂の風景

人生100年の時代と言っても、
それは平坦な道が延々と続く
ものではありません。

50歳を頂点とした山登り。
58歳の私は、頂点から暗い
谷底に向けて降りようとしています。

50歳から55歳にかけては
まだまだ気分は頂点でした。
会社にはまだまだ上に人がいた
40代を抜け、
坂の上の雲に一番近いところに
立った感じ。

それが56歳で腎臓がんを宣告され、

「いつまでもお前が上にいたのでは
下がつかえるだけだ。
これからは下る旅路で何ができるかを
考えなさい」

と神様に言われたような気分に
なりました。

ふと見ると、風景が一変している。
これまでの青空を仰ぎ見て進む
景色から、暗い谷底に向けて歩む道へと
変わっています。

私にできるのは、
これから登ってくる人たちに対し、

「おい、その先は崖だから気をつけろよ!」

「そこは右に行った方が、道は楽だぞ!」

などと、自分の失敗や苦労をもとに
声をかけること。

大して成果のあった登り坂ではありませんでした。
それでも、おせっかいな声をかけたくなる。

その心を垣間見れば、自分のいく先にある
暗くて怖い到達点から目をはなしたい気持ちが
あります。

50歳からのくだり坂は、

「誰かの役に立っている」

と思えることが、生きていく杖なのでしょう。

私は、声をかける相手を、
子どもから若者までに絞りました。

勢いよく登ってくる人々に
私の体験が役に立つとは思えなかった
からです。

中でも、弱い子、ものおじする子、
うまくしゃべれない子に焦点を
あてて、わずかながらでも勇気と
元気がわけられたらと思っています。

朝日小学生新聞に連載している
「大勢の中のあなたへ」は、
小さなことで悩んでいる子どもたちに
向けて書いています。

11月末に発売される
「ひきたよしあきの親塾」
(朝日学生新聞社)は、子育てに
悩む保護者の方に向け、言葉の力で
親になっていく術を書きました。

執筆のときに考えたのは、
自分の親のことでした。

まだまだ私の人生の頂上が遠い先に
あった子ども時代、私の目の前には
いつも、白いワイシャツを着た父と
鼻歌ばかり歌っている母がいました。

父が会社から戻るとすぐに、

「よしあき、星の観察にいこう」

と言って、靴も脱がずに私の手を
とり夜空を眺めたときのこと。
その時に習った「北斗七星」以上に、
夜空の下で白いワイシャツの腕を
まくって話していた父の姿を
今尚鮮明に覚えています。

くだり坂になってなお、
自分の経験を語る中に、父と母と
過ごした日々がある。
それがどれほど幸せなことか。

そしてそのくだり坂の先にある
暗くて、怖い闇が、
星空に立っていた父の背中の
ように見えた時、本はあっという間に
書きあがった。
同時に、くだり坂を歩んでいく
勇気も受け取ったように思えたのです。

男の変わりドキ!
それは、勇気をもって
くだり坂に歩を進められるように
なったとき。

いつのまにか秋空になった
人生を楽しみながら、一歩一歩
くだっていきます。


<ひきたよしあきプロフィール>
1960年生まれ
株式会社 博報堂クリエイティブ・プロデューサーとして働く傍らで、明治大学で講師を勤める。現在朝日小学生新聞にコラム「机の前に貼る一行」日経ウーマンオンラインに「あなたを変える魔法の本棚」を執筆中。著者に「あなたは言葉でできている」(実業之日本社)「ゆっくり前へ ことばの玩具箱」(京都書房)」「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)「机の上に貼る一行」(朝日学生新聞社)「博報堂スピーチライターが教える短くても伝わる文章のコツ」(かんき出版)「大勢の中のあなたへ2」(朝日学生新聞社)がある。最新刊は11月末に「ひきたよしあきの親塾」(朝日学生新聞社)出版予定

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